続 音の生まれる場所(上)
「……私ね、長いことフルートもブラスも避けてたの。彼が亡くなったことがショックすぎて、何もかも思い出したくなくて…」

関係のないカズ君に、ブラスを遠ざけていた理由を話した。彼は黙ったままそれを聞いて、私にこう返事をした。

「分かるよ…好きな奴に急に会えなくなるって、辛いもんな……特に思い出多いと、処理に困るし…」

失恋したばかりだと言って、カズ君は涙ぐんだ。高校の頃から付き合っていた彼女と、つい最近別れたばかりなんだそうだ。

「亡くなった方も…辛かったろうな…」

慰めるように呟くカズ君を見ながら、「そうだね…」と小さな声で返事した。

頭の中では、トランペットの音色の彼を思い出していた。
二年前、会えなくなるとは、どうしても思えなかった。彼は必ず、自分の理想のトランペットを作り上げて、帰って来ると思い込んだ。

でも、今思うとそれは、私の独りよがりで、彼は最初から帰って来る気などなかったのかもしれない。だからこそ「忘れないよ…」と言ったのかも…。


(もう二度と…会えないんだ…)

考えないようにしていた彼のことを、改めて認識した。心の何処かで否定し続けていた言葉を、実感として受け止めた。

…急に悲しくなる。胸がいっぱいになって、涙が押し寄せてきたーーー。

「ひっ…くっ…」

バカみたいに泣き出してしまった。酔ってたせいもあって、自制ができなかったーーー。


(…どうしてあの時…一言、言わなかったんだろう…。「貴方のことが好きです。…待っているから、必ず帰って来て下さい…」とーーー)

足枷になりたくないとか、カッコつけたようなこと思わないで、もっと本心から、彼にぶつかっておけば良かった…。
楽団の練習方法が解らず、意見した時みたいに、本音を語れば良かった。
そしたらきっと、彼は何か言ってくれた筈なのに……。

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