続 音の生まれる場所(上)
何も言わず、交わした握手の中に思いの全てを込めた…。
「好きです」
「行かないで…」
「放したくない…」
「一人にしないで…」ーーー


何もかも、自分の手の中で押し潰した。彼のことを考えて、ただ、ひたすら祈ったーーー。

(思うような楽器を作ってきて…その楽器で私の心をまた、元気にさせて欲しい……)

音の中に朔が生きてると教えてくれたように、貴方も音の世界にいるんだということを私に思い出させて欲しい……。


坂本さん…

だからまた…

会おうね…って。



思いを込めてエールを送った。
泣きながら、あの日の星の瞬きを思い出したーーー。




「…よしよし……」

大きな手が頭を撫でた。見上げると、大人の顔したカズ君が見下ろしてた。自分も少しだけ涙を潤ませて、切なそうな表情をして…。

「泣くな…と言ってやりたいところだけど、今夜はいい…。一緒に泣こう…泣いて明日から笑おう…」

カズ君の言葉は温かだった。冷え切ってた心を包んでもらったような気がしたーー。

「…カズ君…ありがと……」


二人して、泣くだけ泣いた。私は、坂本さんを思いながら。彼は、別れた彼女を思いながら…。
でも、カズ君はきっと、私が朔のことを考えながら泣いたと思ってる。

坂本さんのことは、何も、話していないーーー。




あの後、何度かたて続けに彼と会った。いつもお互い一人で、顔を見る度に

「一人なの(か)?」

と聞き合った。



「付き合おうか…」

どちらが先に言い出したか、よく覚えていない。ただ、会う度に気持ちが解れて温かくなったから、一緒にいたいと思った…。
好きとかいう気持ちは…まだ生まれてなかった……。
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