続 音の生まれる場所(上)
「…さっきの真由子はスゴかったな」
帰り道、思い出して笑われた。カズ君から見たら、いちゃもんをつけられたのは私じゃなくて、相手の方だと言うんだ。
「呂律の回んねー舌で『うっさい!』って怒鳴ってた。えらく威勢のいい奴だと思って見たら真由子じゃん!ビックリした!」
笑いを堪えてる。
「だって、まさかあんな風にいちゃもんつけられるとか思わなかったんだもん…」
飲み過ぎた上での出来事。よく考えたら恥ずかしい。
「そう言えば、カズ君、よく私が分かったね」
中学を卒業してから、学年の違う彼と会うことはなかった。家は近所だけど、登校も下校もバラバラだった。
「俺は高校の頃、時々真由子を見かけてたからさ」
バスで大学へ通ってた頃の話。利用していたバス停の真ん前が、カズ君の通ってた高校だった。
「いつもボンヤリした感じで突っ立てたよな。心ここにあらず…ってな顔で」
朔が亡くなって、三年も経っていない頃のこと。魂が抜け落ちたような顔をして、大学に行ってた。
「おばちゃんが母ちゃんに話してるの聞いた。真由子の彼氏、病気で亡くなったんだってな…」
長いこと元気の戻らない私を、母はすごく心配していた。あれだけ好きだったフルートをやめてしまったことも、胸を痛める原因になっていた…。
「おばちゃんに心配ばっかかけて、親不孝な奴だと思ってたけど…」
カズ君の足が止まる。それに気づいて、立ち止まった。
「相当ショックだったんだ……辛かったな…」
泣き出しそうな顔をしてこっちを向いた。潤んだ瞳を見て、胸が痛くなった。
「……辛かったよ…」
置いてけぼりされたような気持ちだった。数え切れない程のたくさんの思い出が頭にあって、その全てが、夢のようだった。
歩き出しながら、朔のことを思い出した。それから、あの、トランペットの音色も……。
帰り道、思い出して笑われた。カズ君から見たら、いちゃもんをつけられたのは私じゃなくて、相手の方だと言うんだ。
「呂律の回んねー舌で『うっさい!』って怒鳴ってた。えらく威勢のいい奴だと思って見たら真由子じゃん!ビックリした!」
笑いを堪えてる。
「だって、まさかあんな風にいちゃもんつけられるとか思わなかったんだもん…」
飲み過ぎた上での出来事。よく考えたら恥ずかしい。
「そう言えば、カズ君、よく私が分かったね」
中学を卒業してから、学年の違う彼と会うことはなかった。家は近所だけど、登校も下校もバラバラだった。
「俺は高校の頃、時々真由子を見かけてたからさ」
バスで大学へ通ってた頃の話。利用していたバス停の真ん前が、カズ君の通ってた高校だった。
「いつもボンヤリした感じで突っ立てたよな。心ここにあらず…ってな顔で」
朔が亡くなって、三年も経っていない頃のこと。魂が抜け落ちたような顔をして、大学に行ってた。
「おばちゃんが母ちゃんに話してるの聞いた。真由子の彼氏、病気で亡くなったんだってな…」
長いこと元気の戻らない私を、母はすごく心配していた。あれだけ好きだったフルートをやめてしまったことも、胸を痛める原因になっていた…。
「おばちゃんに心配ばっかかけて、親不孝な奴だと思ってたけど…」
カズ君の足が止まる。それに気づいて、立ち止まった。
「相当ショックだったんだ……辛かったな…」
泣き出しそうな顔をしてこっちを向いた。潤んだ瞳を見て、胸が痛くなった。
「……辛かったよ…」
置いてけぼりされたような気持ちだった。数え切れない程のたくさんの思い出が頭にあって、その全てが、夢のようだった。
歩き出しながら、朔のことを思い出した。それから、あの、トランペットの音色も……。