続 音の生まれる場所(上)
目を開ける。目の前に、坂本さんの顔。心配そうに覗き込んでる。
「……目が覚めた?」
ホッとしたような声を出す。
(ここは…どこ…?)
「さっきからずっとうなされてたよ。悪い夢…?」
夢の中と同じ服装してる。
(これも…夢…?)
瞬きをしながら彼の顔を見る。ぼんやりする意識の中、彼が言った。
「点滴してる腕を振り回すから、抑えるのに必死だったよ…」
少し笑顏を見せる。
(点滴…?)
よく見ると、右腕に点滴の針が刺してある。
「練習室の前で倒れたんだ……」
二時間ほど前、休憩中での出来事。廊下に倒れてる私に気づき、皆が集まった。
「声をかけても目を覚まさないから皆が心配して救急車を呼んだ。ここは病院だよ。君は極度の寝不足と過労だってさ…」
手を放しながら教えてくれる。
「今夜一晩、入院だって。家の人には、ハルシンが連絡したよ。君はこの所、ずっと眠れてなかったんだってね。お母さんすごく心配してたよ。明日の朝、怒られるかもしれないね…」
笑いながら話してる。
「……母は?」
やっと声が出た…。
「一度来られたけど、帰ってもらったよ。ここは僕に任せて下さい…って言った」
「坂本さんに…?」
(なんで…?何も言わなかったの…?)
「お母さんね、何故か僕のこと知ってたよ。娘の部屋にある写真の方ですね…って笑ってた」
照れくさそうにしてる。それを見て、こっちの方が恥ずかしくなった。
「あ…あの、その写真は送別会ので…皆で写ってるやつで…」
力の入らない左手で、布団を引っ張り上げようとする。その行動を少し止められた。
「アレなら僕も持ってる」
トランペットのケースから写真を取り出す。
「ほら…」
目の前に見せられた。ドイツへ旅立つ前、皆で撮った写真…。
「ドイツへ行く日の朝、リュウが空港まで届けに来てくれたんだーーー」
『ーーーこいつを持ってけ!御守り代わりだ!』
ぶっきらぼうに渡された。
『いいか!早く帰らねーと、お前のお気に入りは俺がいただくぞ!』
「…冗談めいてそう言うんだよ。だからいざとなったら、助けてやってくれって、頼んどいた…」
写真を片付けに側を離れる。急に怖くなって、手を差し伸べた。
「…坂本さん…」
気づいて戻って来る。キュッ…と両手で握ってくれた…。
「私…」
あの日のことを話そうとした。でも、坂本さんに止められた…。
「何も言わないで…ゆっくりお休み。君は疲れが溜まってるんだ。眠ったほうがいい。よく寝て明日の練習は午後から参加するんだ…」
「…でも…明日は朝から練習なのに…」
焦りが出る。その言葉を聞いて、坂本さんが静かに言った。
「最後の練習だからベストコンディションで参加するんだ。君が演奏するのは『朝の気分』だろ?…清々しい気持ちでないと、上手く音は語れないよ」
ギスギスした気持ちでいることを、ちゃん分かってた。何も言わないでいたのは、言っても聞き入れるような状態じゃなかったからだ。
「目を閉じて。心配いらない。ずっと側にいるから安心してお休み…」
手に力を込めてくれる。安心して少し眠くなってくる…。
「…寝る前だけど…一つだけいい?…亡くなった彼氏の名前は出さないで…」
うわ言で一度、呼んだらしい。
「…亡くなった人には…勝てないよ…」
(勝てない…?…どうして…?)
意識が薄れてくる。
(早く…言わないと…)
「……ごめんなさい…間違えたんです…」
遠のく意識の中、さっきのペットの音が聞こえてくる…。
(…そうか…朔のに似てた気がしたけど……あれは……坂本さんのだ……)
どんどん眠くなってくる。もしかして…点滴の中に薬が入ってる……。
「…もう二度と…間違えません……だって…好きな…人の音…だか……ら…」
ーー引きずり込まれるように眠りに落ちた。
もっと話したかったのに、その後は、朝まで目が覚めなかったーーーー。
「……目が覚めた?」
ホッとしたような声を出す。
(ここは…どこ…?)
「さっきからずっとうなされてたよ。悪い夢…?」
夢の中と同じ服装してる。
(これも…夢…?)
瞬きをしながら彼の顔を見る。ぼんやりする意識の中、彼が言った。
「点滴してる腕を振り回すから、抑えるのに必死だったよ…」
少し笑顏を見せる。
(点滴…?)
よく見ると、右腕に点滴の針が刺してある。
「練習室の前で倒れたんだ……」
二時間ほど前、休憩中での出来事。廊下に倒れてる私に気づき、皆が集まった。
「声をかけても目を覚まさないから皆が心配して救急車を呼んだ。ここは病院だよ。君は極度の寝不足と過労だってさ…」
手を放しながら教えてくれる。
「今夜一晩、入院だって。家の人には、ハルシンが連絡したよ。君はこの所、ずっと眠れてなかったんだってね。お母さんすごく心配してたよ。明日の朝、怒られるかもしれないね…」
笑いながら話してる。
「……母は?」
やっと声が出た…。
「一度来られたけど、帰ってもらったよ。ここは僕に任せて下さい…って言った」
「坂本さんに…?」
(なんで…?何も言わなかったの…?)
「お母さんね、何故か僕のこと知ってたよ。娘の部屋にある写真の方ですね…って笑ってた」
照れくさそうにしてる。それを見て、こっちの方が恥ずかしくなった。
「あ…あの、その写真は送別会ので…皆で写ってるやつで…」
力の入らない左手で、布団を引っ張り上げようとする。その行動を少し止められた。
「アレなら僕も持ってる」
トランペットのケースから写真を取り出す。
「ほら…」
目の前に見せられた。ドイツへ旅立つ前、皆で撮った写真…。
「ドイツへ行く日の朝、リュウが空港まで届けに来てくれたんだーーー」
『ーーーこいつを持ってけ!御守り代わりだ!』
ぶっきらぼうに渡された。
『いいか!早く帰らねーと、お前のお気に入りは俺がいただくぞ!』
「…冗談めいてそう言うんだよ。だからいざとなったら、助けてやってくれって、頼んどいた…」
写真を片付けに側を離れる。急に怖くなって、手を差し伸べた。
「…坂本さん…」
気づいて戻って来る。キュッ…と両手で握ってくれた…。
「私…」
あの日のことを話そうとした。でも、坂本さんに止められた…。
「何も言わないで…ゆっくりお休み。君は疲れが溜まってるんだ。眠ったほうがいい。よく寝て明日の練習は午後から参加するんだ…」
「…でも…明日は朝から練習なのに…」
焦りが出る。その言葉を聞いて、坂本さんが静かに言った。
「最後の練習だからベストコンディションで参加するんだ。君が演奏するのは『朝の気分』だろ?…清々しい気持ちでないと、上手く音は語れないよ」
ギスギスした気持ちでいることを、ちゃん分かってた。何も言わないでいたのは、言っても聞き入れるような状態じゃなかったからだ。
「目を閉じて。心配いらない。ずっと側にいるから安心してお休み…」
手に力を込めてくれる。安心して少し眠くなってくる…。
「…寝る前だけど…一つだけいい?…亡くなった彼氏の名前は出さないで…」
うわ言で一度、呼んだらしい。
「…亡くなった人には…勝てないよ…」
(勝てない…?…どうして…?)
意識が薄れてくる。
(早く…言わないと…)
「……ごめんなさい…間違えたんです…」
遠のく意識の中、さっきのペットの音が聞こえてくる…。
(…そうか…朔のに似てた気がしたけど……あれは……坂本さんのだ……)
どんどん眠くなってくる。もしかして…点滴の中に薬が入ってる……。
「…もう二度と…間違えません……だって…好きな…人の音…だか……ら…」
ーー引きずり込まれるように眠りに落ちた。
もっと話したかったのに、その後は、朝まで目が覚めなかったーーーー。