続 音の生まれる場所(上)
朝日のように…
眩しい光の中、目を開ける。

(…ここは……病室……?)

視界がハッキリしてる。目が大きく開く。頭が軽い。頭痛もしない。こんなふうに気持ちよく目が覚めたのはいつぶりだろう……。

「ふぁっ…」

大きく欠伸をして気づく。ベッドに凭れてる人がいる。眠りにつく前、話をしてた人…。
スースー…と静かな寝息が聞こえる。前髪の隙間から見える横顔。まつ毛が長くて、奥二重の瞳が閉じている…。

「んっ⁉︎ 」

手を動かそうとしたのに動かない。よく見ると、しっかり握られてた。

(もしかして、ずっと…?)

仕方なく、左手で髪を触る。

(柔らかい…もっと硬いのかと思ってた…)

気持ちのいい感触。男性の髪に触れるのなんて、きっと、朔以来だ…。


「ん…」

くすぐったそうに少し頭を揺らす。ビクッ!として手を避ける。目が覚めるかと思ったら、また寝た…。

「…朝…弱いんだ…」

知らないことが増える。些細なことだけど、それが嬉しい。


コンコン!

ドアをノックする音。

カチャ。

隙間から、そ…と中を覗く人がいる。

「よっ…!」

起きてる私に気づいて手を上げる。

「柳さん…」
「具合どう…?」

静かにドアを閉めて近寄って来る。私の顔色を確かめ、隣を見る。

「…やっぱり。まだ寝てんな…」

呆れてる。

「こいつ朝弱くてさ。ちょっとやそっとじゃ起きねーんだよ…」

頭を叩こうとする。

「待って…もう少し寝かせてあげて下さい…」

慌てて止める。

「ちぇっ、つまんね…」

そう言いながらも優しく彼を見てる。その目が、握ってる手に気づいた。

「…ひょっとして、ずっと握ってたのか?」
「…そうみたいです…私もさっき目が覚めて知ったんですけど…」
「ヤラシー奴だな…!」

髪の毛を引っ張ろうとする。大慌てでまた止めた。

「冗談冗談!起こさねーって!」

笑いながら彼のことを見てる。柳さんは、ホントに彼のことを大事にしてるんだな…と思った。

「…顔色良くなったな」

私の方を振り向いて言う。

「はい…今日はとても気分がいいんです…練習にも、ちゃんと参加できると思います…」
「…休んでもいいぞ」
「いいえ。休みません…!」



「…強情だな」

「えっ⁉︎」
「はっ⁉︎」

柳さんと二人、顔を見合わせて下を向いた。眠り込んでた人が、体を起こす。

「小沢さん…その強情なとこ…直すべきだよ…無理して倒れてるのに……良くないよ…」

大きく欠伸をしながら言う。

「…お前…説得力まるでねーぞ」

柳さんが呆れる。

「ホント。全然効かない!」

可笑しくて笑う。むくれる彼の顔を見て、柳さんまでもが吹きだした。病室内に響き渡る笑い声。大慌てで止めた。



「ところでさ…」

柳さんが指差す。

「そろそろ放してやれよ」
「…あっ…ごめん!」

パッ!と手が放れる。照れる彼を、柳さんが思いきりからかった。

「やっぱ、お前はヤラシー!」

病室の中が賑やかになる。私にとって、この白い殺風景な部屋は、鬼門でしかなかったのに…。

「お二人とも…ありがとうございました。ご心配をかけて…すみません…」

頭を下げる。揃って顔を見合わせる。そこへ母が入って来て、私はこっぴどく怒られた。
< 52 / 76 >

この作品をシェア

pagetop