続 音の生まれる場所(上)
「坂本さん、何食べます?好きな物ありますか?」

中身を見せながら聞く。覗き込んだ彼が、箸で差した。

「コレ食べてみていい?」
「卵焼きですね。どうぞ。母の一番の得意料理です」

フタの上に乗せる。

「子供の頃みたいだ…」

喜んで食べてる。

「美味い!お母さん、料理上手だね」

可愛い顔してる。

「良かった。母が聞いたら喜びます!」

ニッコリしながら、ついはしゃいだ。

「…どうぞ、他のも食べてみて下さい」

テレながら勧める。次に取ったのは唐揚げ。私が下味つけたのだ…。

「…さっきのより美味い…!」

驚くように言った。

「そ、そうですか⁉︎ 良かったー」

大げさにホッとする。それを見て、彼が聞き返した。

「…小沢さんが作ったの?」

目を丸くしてる。

「そうですよ。私が下味付けたのを、母が揚げたんです」

自分もパクついて答える。モグモグ食べてる私の横で、彼がはぁー…と大きく溜め息をついた。

「な…何ですか?」

呑み込んで聞く。

「あ…いや、勿体なかったな…と思って。小沢さんが作ったんなら、もう少し味わって食べれば良かった…」

気落ちしながらお弁当の中身を見る。唐揚げは二個入ってただけ。もう無くなってる。

「残念。惜しかった…」
「すみません…もっと沢山入ってたら良かったですね」

日頃あんまり揚げ物を食べないのを知ってるもんだから、入れるのを遠慮したみたい。

「他に作ったの入ってる?」

覗き込むようにして聞かれる。

「それが…今日はないんですよ。晴れ舞台だからって、母がすごく張り切っちゃって…」

作る間もなく、キッチンへ行ったら出来上がってた。

「おにぎりだけなんとか自分で作ったんですけど。母が作ると量が多くなるから…」

ほら…と、小さな弁当箱のフタをとる。コロコロとまん丸なおにぎりが並ぶ。

「可愛いね…」

顔がほころぶ。

「でしょ?私好きなんです。この小さくて可愛いおにぎりが。…あっ、中身も全部違うんですよ!」

説明しながら手のひらに一個乗せる。

「食べてみて下さい。びっくりすると思いますよ!」

笑ってる私の顔を眺め、口の中に入れる。一口サイズのおにぎりが、コロコロと頬に沿って転がってる。

「…ん、チーズ…えっ…⁉︎ たくあん入ってる…!」
「そうなんですよ!中身コラボってるの!」

わざとやってる。カズ君と付き合ってた時も、毎回これが好評だった。

「チーズとたくあんって初の組み合わせだよ。面白いね、他のは?」
「食べてみたら分かりますよ。はい!」

お弁当箱ごと渡す。

「えっ…小沢さんのは?」
「私いりません。おかず沢山あるし、喜んで食べてくれる人がいるなら、その人のこと見てたいから…」

ホントは胸がいっぱいで食べれない気分だった。まさかここで、坂本さんと鉢合わせるなんて思いもしなかった…。

「それじゃ悪いよ。あっ、コレと交換しよう」

コンビニの袋ごとくれる。

「僕が弁当食べるから、君はコッチね」

さっさと取り上げて食べだす。

「美味い!今のはキムチと納豆だった!」

楽しそうに食べてる。誰かに食べてもらうのなんて、二ヶ月ぶり。こんなに幸せなことだったかな…って、再確認してた。
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