続 音の生まれる場所(上)
「…僕、ドイツでいつも日本食が食べたくて…」

思い出したように坂本さんの口が開く。その様子を、コンビニのおにぎり片手に聞いた。

「君達が出発前に話してたソーセージとかビールとかも美味かったけど、やっぱり一番食べたかったのは、母が作ってくれた味噌汁でね…梅干しとか納豆とか…いつもそんな食べない物が、無性に恋しかった…」

笑ってる。なんだか知らないけど、すごくリラックスしてるみたい。

「…日本に帰ったら、一番最初に母に味噌汁作ってもらおうと思って…」
「…飲まれたんですか?お母さんのお味噌汁…」

話してた人がこっちを振り向く。にこっと笑って、大きく頷いた。

「うん。帰ったら作ってあった。僕の好きな物、全部用意して…」

お弁当食べたら、それを思い出したらしい。

(どうりで…リラックスしてた訳か…)

嬉しくなる。自分だけが知る、彼の一面みたいだ。

「坂本さんの好きな物って、何なんですか?」

新発見ついでに聞いておく。私のおにぎりにかじりついてた人が、箸でおかずを差した。

(卵焼き、エビフライ、きんぴらごぼう…)

「後は?」

首を傾げて聞く。箸を持ってた指先が動く。そして、こっちを指差した。

「さっきの小沢さんが作った唐揚げ。是非また食べたい。それから…」

照れながら指を下ろす。少しだけこっちに近付いて、コソッ…と小さな声で言った。

「この、小さくて可愛いおにぎりも…」

口の中に一個放り込まれた。条件反射のように噛みしめる。

「…中身何だった?」

「…鮭フレークと青菜の漬物…」

困り顔で答える私を見て笑う。胸の鼓動が速くなる。こんなに近い距離。今更ながら恥ずかしい…。


「小沢さん…」

朝のやり直し…?ドキッと胸が震えた…。

「あの…」

緊張気味な声がする。ゴクン…とご飯を呑み込んで、そして……



「ゲホッ!」

思いっきり咽せたーーー。
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