続 音の生まれる場所(上)
「終わったな…」

ハルシンと一緒に外にいる人達を見送った。

「いい演奏会だったよ」

シンヤの声に頷く。

「…私、今日のこと忘れない。今度、朔に報告に行く」

決めたように言うと、二人が私に合わせた。

「俺も行こーと思ってたんだ」
「僕も行くよ!」
「じゃあ、ナツも誘お!…久しぶりに皆で会いに行こう!」

三人で誓い合った。どんなに時が経っても、朔は私達にとって大事な友人。
この喜びを分かち合いたいーーーー。




練習室に戻ると、早速打ち上げの話が始まっていた。

「どこでやる⁉︎ 参加するヤツは手上げろー!」

柳さんの声かけで、ほぼ全員が手を上げる。坂本さんの方を確かめると、彼もこっちを向いていた。
ドキッ…として目を逸らす。
語り合った言葉を思い出し、ずっと胸が鳴りっぱなしだった…。



通用口から外へ出ると、暖かい春の風が吹いてた。

「今夜あったかいねー」

女子達が喜ぶ。その声を聞きながら、私は黙って空を見上げた。

(あの時みたいだな…)

三年前の冬の夜、旅立つ彼の為に開かれた送別会のことを思ってた。あの時はその後、辛い別れが待ってたけど…。


「…今夜は空気が澄んでるね…」

その声に振り向いた。あの日と同じように、彼が空を見上げていた。

「星がはっきり見える日は、空気も澄んでるんだって」

目線下げずに教えてくれる。

「そうなんですか。初めて知りました…」

答えて空を見上げる。星座はよく知らないけど、確かに星がハッキリ見えた。

「…小沢さん…あの…」

視線を下げ、彼が声をかけてくる。三度目のことながら、やっぱり緊張した…。


「は…はい…(今度こそタイミング合って…!)」

緊張気味に彼を見た。照れくさそうな顔をしてる彼が、口を開いた…。


「おいっ!そこの二人っ!!」

ビクッ!とする様な声がして振り返る。後ろの方から、柳さんがやって来た。

「リュウ……タイミング悪っ…」

力が抜けるように呟く。「何だよ…」とぼやく柳さんを前に押しやり、彼が私の方を向いた。

「行こうか。アイツ遅れるとやかましいから」

つられて歩き出す。今日のタイミングの悪さに、お互いつくづく嫌になった。


(……もう…今夜でなくていいか…)

諦めながら歩く。トボトボ…と狭い歩幅で歩くせいか、彼と少しだけ距離が開いた。

「小沢さん…どうかした…?」

立ち止まって聞く。その声に気づいて、首を横に振った。

「どうもしません。定演が済んで、気が抜けただけです…」

ゆっくり歩く私に合わせてくれる。さっきの演奏の時と同じ優しさに、胸が熱くなった…。
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