続 音の生まれる場所(上)
打ち上げの会場へ着くと、柳さんがイライラして待ってた。

「主役が来ねぇと始まらねーだろっ!」

ぷりぷり怒りながらビールを注ぐ。全員がグラスを持っているのを確かめて、先生が乾杯の音頭を取った。

「今日はお疲れ!皆のおかげでいい演奏会になった。しっかり飲んで、また次の演奏会も頑張ろう!乾杯っ!!」

『カンパーイ!』

皆とグラスを鳴らし合う。少し離れたところにいる彼とは、仕草だけで乾杯した。
ワイワイと盛り上がる打ち上げの中、さっきの二重奏のことが話題に上った。


「えっ…知らなかったの…⁉︎ 」

石澤さんが意外そうな顔をした。

「えっ…知ってたんですか⁉︎ 」

驚いて聞き返した。

「知ってたよ…ねぇ⁈ 」

周りの人達に同意を求める。クラやサックス、木管楽器の女子達がうんうん…と頷いた。

「…ハルシンも⁉︎ 」

隣のグループにいた二人に声をかける。振り向いた彼等が私の顔を見て呆れた。

「何も聞いてなかったのかよ⁈ 」
「もっさんが話すことになってたんだけど?」
「坂本さんが…?」

(ウソ。何も言ってくれなかったし…って、ちょっと待って…)

朝から言いにくそうにしてる場面が何度かあった。てっきり彼が告ろうとしてるんだとばかり思ってたけど…。


「もしかして、そうじゃなくて…」

独り言のように呟いて彼を見る。金管パートの人達と談笑してる彼の横顔を見て、急に恥ずかしくなった。

「ヤダ…そうだったんだ…」

急に力が抜けてしゃがみ込んだ。ははは…と情けなく笑う私を見て、皆が不思議そうに顔を見合わせる。



…さっき、打ち上げが終わったら一緒に帰ろうと約束した。帰る道すがら、直に聞いてみたいと思う。
どうしてあんなに勿体ぶってたのか…。
それから…近いうちに二人で会おうね…って約束取り付けて……


昨日の午後のことを思い出す。母から電話があったと平気そうに言ってた彼の態度に、少しイラッ…とした。

(私にも電話番号とメルアド教えて…ってお願いするんだ…!)


「お互い知らないことがあると思う…」

彼の言葉の通り、これからきっといろんな事が始まっていくと思う。その一つ一つが形となって、いつか沢山積み重なったら…


(その時はお願いしてもいい…?)


「私にも…楽器作りの手伝いをさせて下さい」って……。

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