溺惑バレンタイン(『恋愛遺伝子欠乏症 特効薬は御曹司!?』番外編)
 けれど、そんなちょっとした不安は、料理が運ばれてくると消えてしまった。アボカドのピューレを見た航が、眉間にしわを刻んだのだ。彼が亜莉沙と初めて食事に行ったときに、ジェノベーゼソースを見て〝宇宙人の食べ物〟と形容したのを思い出す。きっと今も同じことを思っているんだろう。

「これはアボカドだから、ジェノベーゼみたいにバジルの香りはしないよ」

 亜莉沙に言われて、航の頬にわずかに朱が差す。

「わ、わかってるって」

 次男とはいえ、副社長の息子だから高級なものを食べ慣れてそうなのに、彼は大学時代から十二年間大阪で一人暮らしをしていたせいか、ファーストフードやクリーム系のパスタなど、好みがわりと偏っている。

「うん、さすがアボカドだな。こってりしてる」

 そしてだいたいのものをお好み焼きや焼きそばのソースでも形容するかのように〝こってり〟と表するのだ。

(航さんらしい感想)

 内心微笑ましく思っていると、グリーンピースのポタージュが運ばれてきた。表面に生クリームでハートが三つ描かれている。

「わあ、かわいい!」

 亜莉沙の笑顔を見て、航もホッと表情を緩める。

「さすがバレンタイン・ディナーだな」
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