届屋ぎんかの怪異譚
「しかも、遺体がなくなっておるとな?」
「そうだ」
答えたのは朔だ。
「ここ一月の間で起きた首吊りが十三件。十三件すべて、遺族が弔おうとした直前に遺体がなくなっている。遺体がなくなることを考えると、十三件よりも多いかもな」
「うむ。長いこと放置していたわけでもないのに遺体がなくなる。車の音を聞いた者もいるのに、誰も遺体を持ち去った者を見ていない。おそらく、これも妖の仕業と見ていいじゃろう」
「車の妖と言うと……火車かしら?」
「朧車ということもあろうのう。どちらにせよ、遺体を持ち去っているのが本当に車の妖だとすれば、車の妖と首吊りの鬼がなにかしらの繋がりを持っていることは確かじゃのう」
「そんなことがありえるの?」
縊鬼が人に憑いて首をくぐらせるのはともかく、車の妖が人の死体を持ち去って何の得があるというのか。
銀花がそう言うと、
「銀花は根が善人じゃのう。そこの朔はもう、わらわの言わんとしていることに勘付いているようじゃが」
と、萩は呆れたような笑みを浮かべた。
「ど、どういうこと……?」
「人の死体を集める。そうすればなにができると思う?」
銀花に応えたのは朔だ。