届屋ぎんかの怪異譚



みるみる消耗していく妖力の、底を感じた。


よろめきそうになる脚を必死で支えて、あと少し、と、心の中で念じる。



「復讐なんてしないでよ。人殺しなんてしないでよ。何も背負わないで、今の、優しい朔のまま、……あたしの隣を、選んでよ」



お願い、とつぶやいたとき、ふ、と、全身の力が抜けていく感覚がした。


脚が体を支えられなくなって、体が傾く。

縊鬼となった山吹の魂が、完全に体から抜けたのだと悟った。


焦ったような朔の顔が目に入って、大丈夫だよ、と言う代わりにほんのすこし笑ってみせる。



次の瞬間。



ドス、という鈍い音。


そして一拍遅れて、胸のあたりに激痛が走った。


倒れ込んだ拍子に、左の胸に刀が刺さっているのが目に入った。



後ろから晦に刺されたのか、と、どこか他人事のように思った。



月を浴びた刀の光が目を焼く。



晦の――否、犬神の高笑いが聞こえる。



最後に朔が名前を呼ぶ声が耳に届いて、銀花は意識を手放した。



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