届屋ぎんかの怪異譚


――――――――――


「銀花――!」


誰かの叫ぶ声が遠くで聞こえた。



胸の中に倒れかかってきた重みを反射で受けとめ、朔は呆然と、銀花のつややかな黒髪を見下ろした。



「おい、」



呼びかけても答えはない。


そっと背に触れた己の手が、ぬるりとした生暖かいものに触れたのがわかった。



血。


血が、止まらない。



キン、と耳もとで音がした。


ハッとして顔を上げると、すぐ目の前に猫目がいた。


晦のふるった刀を、猫目が太刀で受けとめているのが見えた。


晦が立ち上がって刀を取ったことにすら気づかなかったことを、理解するのに時間がかかった。



頭のどこかが麻痺したようで、うまく働かない。


それなのに、頭の中に言葉はとめどなく溢れた。



――俺のせいだ。



銀花を巻き込んだ。


やはりなんとしてでも置いてくるべきだった。


いや、そもそも復讐など考えなければよかった。


復讐などにこだわったからこうなったんだ。



「しっかりしろ、朔!」



猫目の怒号とともに、頬を打たれた。


痛みが徐々に、朔の意識を現実に引き戻す。



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