届屋ぎんかの怪異譚
「呆然としてる暇があったら早く止血を!」
猫目が背中ごしに言って、太刀の柄を握る手に力を込める。
いつのまにかそばにいた玉響が、朔から銀花を引き離そうと手を伸ばす。
そのとき。
「止血の必要はないわ」
白檀が言った。
「千影。あなたは犬神をおさえていなさい」
ずるずると地を這い、朔のすぐ近くまで来ると、白檀は銀花に手を伸ばす。
朔がその手首をとっさに掴んだ。
「何をする気だ」
「傷を治す。手を退けなさい。早くしないと手遅れになる」
手遅れ、という言葉にたじろいだ朔の手を振り払って、白檀は銀花の背に触れた。
すると、白檀の触れた傷口が、柔らかな光を放った。
「白檀、その術は……」
「いいのよ。――山吹の子を死なせるものですか」
言いかけた玉響を制し、白檀は銀花の傷口を、そっと、ゆっくりと撫でる。
白檀の指がなぞったところから傷が塞がっていくのを、朔は声も出せずに見ていた。