届屋ぎんかの怪異譚
光が消えた。
光とともに、銀花の傷も跡形もなく消えていた。
――ほんの一瞬のことだった。
「銀花」
そっと呼びかけてみる。
抱き寄せると、胸の鼓動とかすかな寝息が聞こえた。
「生きてる」
確かめるようにつぶやいて、その瞬間、朔は膝から力が抜けるのを感じた。
気づいたときには地面に座り込んでいた。
右手はしっかりと銀花の肩を抱いたまま。
ずる、と地を這う音に顔を上げた。
「よっぽど銀花が好きなのね。復讐もどうでもよくなるくらいに」
皮肉な笑みと裏腹に、白檀の声は穏やかだった。
「残念ね。あなたはもう永遠に復讐を果たせない」
そう言った白檀の顔に、ピシ、と音を立てて、大きなひびが斜めに走った。
驚きに目を見張った朔の隣で、玉響が「やっぱり、もう限界だったんだな」と、低く言った。
「白檀様……、どういう、ことですか」
声に振り返ると、犬神を結界で囲み終えた猫目が、呆然として立ち尽くしていた。