自惚れ男子の取説書【完】

その日松山さんは、約束どおり身体を起こし立ち上がる所まで進んでみせた。

二人がかりで両サイドを支えながらも、苦悶の表情で踏ん張る。奥さんが見守る中、たった5分程度の時間だったけれど大きな一歩をみせた。


「立つの…こんなキツイんだな…」

「最初は、ですね。少しずつ頑張っていきましょう」

「……ん。明日も、だな」

前向きな言葉に、松山さんの奥さんと目をあわせ微笑みあう。
術直前まで禁煙出来なかったり、何かと問題が多くて正直どうなるかと思ったけど。何より治療に積極的な態度が嬉しい。


こういう瞬間、患者さんの回復を目の当たりにすると看護師をしていて本当に良かったと思う。仕事をするなかで好きな時間だ。
< 178 / 362 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop