自惚れ男子の取説書【完】
「それじゃあ、ありがとうございました。えぇっと…」
「辻です。すみません、名乗ってませんでしたね」
「私こそおしゃべりに夢中になっちゃったわ。辻さん、本当にありがとう」
丁寧に一礼しゆっくり背を向ける由美さん。添えていた手を離しても由美さんの背筋はピンとのび、まっすぐに病室へと向かっていった。
きれいな人だったな。
それだけじゃなくて、懐が深くって可愛らしくて。とにかく素敵な人だった。
ほんわかとした余韻に浸りながら時計に目をやる。
「うっ…!引き継ぎ始まっちゃう」
現実に一気に引き戻されると、後ろ髪引かれる思いで私は元の道を引き返した。