自惚れ男子の取説書【完】
あれから順調に回復してきた松山さん。身体のチューブも残り数本となって、大分動きもスムーズになってきた。傷を庇いながらも病棟を1周歩けるようになり、座って話せる時間も随分長くなった。
「そういえば、さっきご家族みえてたよ」
「ほんと?それじゃ挨拶しとこうかな」
松山さんの奥さんは毎日かかさず面会に来る。毎日の小さな回復を喜びあって大分打ち解けたと思うんだけど、他の家族はそれぞれ仕事やらでめったに顔を出さないのだ。
手洗いをすませ念のため他のスタッフにも声をかけると、松山さんの居る5号室をノックした。
「失礼します」
「はぁーい、あら辻さん」
本人の代わりに返事をした奥さんは、ベッドサイドのパイプ椅子にちょこんと座っていた。奥さんのいつもの定位置だ。