自惚れ男子の取説書【完】
「何で…何でそんな事言うのよバカ!全部あの最低男が悪いんじゃない!」
どうにか圧し殺した声で小さく叫ぶと、美沙はテーブルの上でぎゅっと両手を握った。
「何よあの男!あんなに琴美のこと見つめてさ、琴美のために私に連絡してきたり。琴美も幸せそうに話すからさ、私…私っ…私が悪いんだぁ……ごめんね琴美ぃ…」
ひっくひぃっく、と小さい子どもみたいにしゃくりあげる美沙。説教されることは覚悟してたんだけど、まさかの展開にさすがの私も慌てる。
「ちょっ、美沙!何で美沙が謝るのよ。元はと言えば私が勘違いして突っ走ったのが悪いんだよ。私が悪いの!ねぇ、美沙ってば…」
美沙の手を握り宥めようとするけど、つられるように鼻の奥がツンとするのを感じる。きゅっと奥歯を噛みしめ、溢れそうなのをどうにか堪える。
「ほーんと羨ましいなぁ、もう」
ふっと軽く息を吐くと、名波先生は美沙の髪をそっと撫でるよう優しく頭に手をおいた。ハンカチを差し出し、とても愛しそうにその横顔を見つめる。
私に視線を移すと「大丈夫だよ」と優しく微笑んだ。