自惚れ男子の取説書【完】
バシっと激しい音と共に、美沙の平手は名波先生の背中に降り下ろされた。これは絶対手形つくな…ってレベル。
さすがに悪いと思ったのか。ごめん調子乗った、と背中をさすりながら名波先生は頭をさげた。
「まぁそれこそ俺には分からない事情だけどさ。あの二人、違うと思うよ。俺の勘意外と当たるから」
「はぁ…」
「あんたの勘なんて当てになんないじゃない。もし仮にそうだとして、琴美泣かせてる時点で私が許さないっての!」
ふん、と荒い息を吐くと美沙は泣いた分の水分補給みたくグラスの水をぐいっと飲み干した。ぷはっとおじさんみたいな仕草さえ、名波先生は幸せそうに見つめてるんだから…恋って怖い。
「美沙…ありがと。でももう大丈夫。もう会うこともないし」
コンビニの店先で会ってから数週間、あれから小田さんとの接点は何もない。
いや、意図的になくしたのだ。通勤ルートを変え、あのイタリアンのお店にも近づいていない。駅を使う時もうっかり彼を探してしまわぬよう、ひたすら足元を見つめて歩いた。