自惚れ男子の取説書【完】
「いってぇ…ごめんって。これでも空気読んで言ってんだよ?辻さん、あの人元彼じゃないって言ってたでしょ」
「あ、はい。その…彼氏だったわけじゃないんです」
背中をさすりながら、どうにか話を進めようとする名波先生。落ち着いて答える私を見て、ようやく美沙はフォークをお皿へと向け直した。相変わらずむすっとしてるけど、どうやら名波先生の話を聞く気になったようだ。
その様子にちらりと目をやると、名波先生は愛しそうに微笑んだ。
「ほんと、辻さん羨ましいわ。愛されてんねぇ」
「え?あ、そうですね…ふふっ」
「ちょっと何よ、二人して!何よ、さっさと話進めなさいよ」
美沙の雷に名波先生はペロッと舌を出して見せると、少し真面目な顔に切り替え話を始めた。
「あの二人、友達って感じじゃないけど…かといって恋人って雰囲気でもないんだよね。まぁだから何だって話だけど。途中でやめるより、とことんやっちゃった方が俺は後悔しないと思うよ?後悔しないようにやんな。これは人生の先輩としてアドバイス」
穏やかに、何か諭すように優しく語りかけると、先生は美沙に向けるのとはまた違う優しい顔を私へ向けた。