自惚れ男子の取説書【完】
美沙の反応は意外に落ち着いていた。
玄関で松山さんに出くわしたこと、デートに誘われたこと、それを小田さんが助けてくれたこと。なぜかひどく不機嫌で罵倒されたことまでは話したけど…あんな当て付けのキス、思い出したくもなくて言えなかった。
「ふーん…案外あの男も分かりやすいってことか」
「え?私、全然意味わかんないんだけど。なんで?美沙わかるの?」
「まぁ…ね。しっかしあのバカと琴美の事勘違いするとはね。あり得ないわよ」
ふん、と荒く息を吐くと不機嫌そうに眉を寄せる。
「そうね、名波先生は美沙一筋だもんね」
「はぁ?違うでしょ、誰もそういう事言ってんじゃないの!なによ琴美まで、あのバカうつったんじゃないの」
一層機嫌を損ねた美沙はバンっと激しくテーブルを叩く、と思いの外大きな音でビクッと大袈裟に肩が揺れた。
院内の外れにあるこのカフェは、比較的患者さんの利用は少ない。それでも多少は人の目があるわけで、美沙は潮らしく声のトーンを落とした。