自惚れ男子の取説書【完】
院内を通るのはカフェから駅への近道だ。
美沙と別れ外来棟を突っ切ると渡り廊下へと出た。睡眠不足の目に日差しがひどく眩しくて、思わず目を細める。
薄曇りの空はさほど暑くなくちょうど良い。うっかり目を閉じると、そのまま睡魔に引っ張られてしまいそうで慌てて頭を振る。
「ダメ…布団…」
美沙と話して妙に気が抜けたのかも。我ながらおかしな単語を小さく呟く。
あぁあのベンチで昼寝したらどんなに気持ちいいだろう。
そんな危ない妄想をしつつ目をやったベンチから、ゆっくり人影がこちらへと動くのが分かった。
「あら、あなた…辻さん?」
由美さんがいつかと同じ柔らかな笑顔で微笑んでいた。