自惚れ男子の取説書【完】
穏やかな風が草木の匂いを運んでくる。うっとりと目を閉じれば、あっという間に意識を飛ばしてしまいそうだ。
「あらやだ。ごめんなさい、早く帰らないとお疲れでしょう?引き留めちゃってごめんなさいね」
「いえ、そんなこと。ただ、今帰るのは危ないので…少しお話してくださると助かります」
苦笑いしつつ申し出ると、由美さんは「喜んで」と口角をあげた。
由美さんのことだ、自然な流れで勧めてくれたんだろう。だけど正直…眠いです、ごめんなさい。
私と話すのは少なからず嫌ではなさそうだし、眠気覚ましに由美さんとおしゃべりを楽しむことにした。
「そうそう。もうすぐ私、退院出来そうなの」
「本当ですか!おめでとうございます」
「今日の検査結果次第ね。これで娘の結婚式もちゃんと出られそうよ」