自惚れ男子の取説書【完】
「嫌なの、琴美がいつまでもうじうじしてるの。あんたは普段抜けてようが女捨ててようが、仕事はバシっとこなしてさ。辛気臭い顔してないで、豪快に笑ってくれてないと私が気持ち悪いの!」
そこまで言い切ると、美沙は勢いよくカップのコーヒーをあおる。ぐいっと口を拭う姿が雑過ぎて、いつもの美沙らしくもない。
しかもまくし立てる台詞はハチャメチャで。私を誉めてるんだかけなしてるんだか…判断に困って、私はただ呆然としていた。
「ぷっ…!美沙ったら言ってること無茶苦茶だよ」
一瞬の静寂を破ったのは、りっちゃんの笑い声だった。
「ふふっ、美沙が琴美ちゃんの事心配してるのはよーく分かった」
「ふん。よっぽど琴美より琴美のことわかってるつもりよ?」
「なっ…なにそれ!」
さっきまでのはりつめた空気が嘘みたいに、みんなそろって笑いだしてしまった。
美沙の言葉が嬉しくてなんだか視界が滲む。泣き笑いのぐしゃぐしゃの顔で、存分に笑い転げた。