自惚れ男子の取説書【完】
噛み締めるように強く頷く美沙。それに同調していたりっちゃんは、「あぁでも」と何事が思い付いたように身体ごと美沙の方へ向き直した。
「琴美だって石川くんの連絡先知ってるでしょ?直接聞いてくれれば良かったのに」
「いいの。人の彼氏とは余計な連絡は取らない主義なの。もう律子の彼氏なんだから」
「相変わらずだなぁ。ふふっ、気遣ってくれてありがと」
肩をすくめ「なんの事?」と態度だけで答えると、美沙は店員に声をかけコーヒーのお代わりを注文した。
そういえば美沙から聞いた事がある。
学生の頃、友達の彼氏の相談に乗ってたらその彼が美沙に心変わりしちゃったらしく。それは凄まじい修羅場で、友達ともそれっきりになってしまったらしい。
美沙は可愛いし愛想もいい、女の私から見ても”イイ女”だ。それもきっと、美沙には嫌な事を沢山引き寄せてしまったのかもしれない。
さっきまでの般若の形相はどこへやら。いつも通り落ち着いた所作でコーヒーを飲む美沙は、やっぱりキレイだ。