自惚れ男子の取説書【完】
「大和、あなた"沖田"姓にならない?」
突拍子もない申し出に呆気に取られた。
「お父さん1人じゃ寂しいと思って美月とあなたを離しちゃったけど…これじゃああなたが1人じゃない」
なんて勝手な言い分。それが率直な印象だった。
そんな理由で俺は置いていかれたのか、と。
仕事人間だった父親は自宅にもほとんど居ないし、高校生だった俺とは大した会話もなかった。俺が居ても居なくても変わらないじゃないか。
社会人になり今更名前を変える意味も分からなかった。営業にとって名前を変えるリスクがどんな事か。あの母親のことだ、深くは考えてなかったんだろう。
第一『沖田大和』って……渋過ぎるだろう、どこの武士だ。
大和という名前は自分の中でいまいちだと言うのに、それを"沖田"になんてしてみろ…あり得ない話だと言って俺は断固拒否した。
あの人と話してその話題になるのも面倒で、結果見舞いにも行かなくなっていった。それをしつこく美月が引っ張っていくもんだから、美月から逃げるのにも骨が折れた。
それがまさかあいつが働いてる病院だったとはな。
「小田さーん。これ写真見てもいいですか?」
「あぁ、勝手にどーぞ」
愛しい声に思わずにやける。危ねぇ…声はいつも通りだっただろうか。