冷たい彼-初恋が終わるとき-
足早に歩み寄ってきた桐生君は、頭に乗っていた手を弾き、私の頭を抱えて引き寄せた。
そのまま桐生君の胸元に手を置いて、腕の中に収まる。
「…っ」
背中に回る手の感触に、どうしようもなく鼓動が跳ねる。生まれた感情を受け入れてしまうと、無性に恥ずかしかった。
高鳴る鼓動に耐えていると、恐怖で震えていると勘違いしたのか、桐生君が凄む。
「…何人の女泣かせてんだよ」
「ごめん。泣かせるつもりじゃなかったんだけど」
大して反省もしていないような口振りで、落合君は言う。
「あの、」
「…お前は黙ってろ」
落合君は関係ない。そう言おうとしたのに更にキツく抱き締められて口を閉ざす。反省も何も、落合君は何も悪いことをしていないのに。
敵視する桐生君を見てどこか表情が柔らかい落合君は“邪魔者は退散するよ”と微笑した。
「じゃあ椎名さん、仲良くしてあげてね」
隣を通る時そんなことを言われて私は固まった。
「…あ"?」
桐生君が傍にいるのにそんなことを言わないで欲しい。威嚇する桐生君を余所に、我が道を行く落合君は、飄々と去っていってしまった。