ボーダー・ライン
こうして落ち着きを取り戻したチャットルームで、僕達のテキスト会話は続く。
『私が送ったメール見た?』
『いや、全部は見てないけど……でもラブレターは読んだよ、嬉しかったな』
『なーんだ、ぶぅ』
『何だよ』
『後で全部読んでおいてね、ちゃんと気持ちをこめてみんな書いてるんだから』
『むくれるなよ。男としては困るんだよ、そういうの』
『ぷぅ、どうしてさ』
『かわいいからだよ。画面を通り越してでも、抱きしめたくなる』
僕って男は、画面の中でなら現実で絶対に言えないような、くっさいセリフを次々に吐き出せる。
顔と肩書、コンプレックスを二つ隠しただけで、人間はこうも強くなれるのか。
『かわいい、そうかなぁ? 私、ブサイクだから』
『いや、かわいいよ。心がかわいければ、顔なんて関係ないよ』
『そうかなぁ、中学時代いじめとか受けてたから……』
『そっか、辛かったな……。でもそれはそれ。今は俺がそばにいるだろ』
『うん、ずっと一緒にいてくれる?』
『もちろんだ』
『タカのこと、大好き』
『ああ、俺も大好きだよ』
恥ずかしくて到底言えないような一言も、口からではなく指先からなら案外さらっと言えてしまう。
『ずっと一緒にいたいな』
『誰が別れるなんて言った、そんな簡単に俺はお前を離さないから』
『一緒にいて。淋しいのは、嫌』