ボーダー・ライン

だけど、
『うん、お話したい』
一旦へそを曲げた彼女はすぐに僕の元へ帰ってきた。

僕の悪い癖、性格を理解してくれているんだろうか、
『シチューおいしそうだったでしょ』
彼女は僕の心を必要以上に詮索しない。

『夕方から一時間以上、赤ワインで煮込んだんだよ。スジもトロトロ』

その話題の振り回し方に僕は気がついた。
そうか、そうだったんだな、サトミ。
彼女は彼女なりに僕に気を使っているのか。

僕はその心遣いに、
『うん、うまそうだった。すごいなぁサトミは。エライエライ』
と応えた。
すると、
『てへへっ』
彼女はこどもらしく照れ笑いを返すのだった。

わかった。
ならば僕も君を詮索しない。
これは、二人が付き合う上でのルールとしておこう。

そのルールとは「痛いことはしない」こと。
傷をつくってまで、探らない。
気持ち良くなるための恋愛でまで、僕らは傷つくのが嫌なんだ。

ずっとふたりで一緒にいるために、あえて干渉しないことも必要なんだ。

大人の世界で、まだまだ未熟な僕たちは疲れている。
せめて二人でいる時くらいは、甘い時間に浸っていたいじゃないか。


これは、そのためのルールである。

「詮索……しない」
僕は再度自分に言い聞かせるように、暗唱するかのようにゆっくりと、その大切なきまりを口に出して繰り返した。


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