夜人【ヨルヒト】さん

旧校舎・2

バイクのエンジン音が止むと、押しつぶされそうな静寂が迫ってくる。

外したヘルメットを抱えたまま、トキコは立ち尽くしていた。

いつもと何も変わらない旧校舎が、今は得体の知れない空間に見えた。

「メット貸して」

ユキオミの声で我に返る。

ヘルメットを置くと、ユキオミが先に歩きだした。

「待って……」

掠れた声で言うのが精一杯だった。

崩れそうになる膝を心の内で叱咤しながら、ユキオミの背中を追いかける。
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