バースデー・イブ

将吾に言われた言葉が頭の中で繰り返す。あたしの考えはわがままなのだろうか？意地汚いのだろうか？自力でバイザヤードを買うことは当てつけなのだろうか…

　「あれ、中野さん？」
　不意に声をかけられ顔を上げると、先日会社に来た監査の人が立っていた。
　「……久保さん？」
　メンズ雑誌と分厚い本を片手にした仕事終わりらしき久保さんに鉢合わせる。ウェリントン型の眼鏡のレンズ越しに見える目が優しい弧を描く。
　「買い物ですか？」
　「はい。雑誌の発売日なので。久保さんは？」
　「俺も雑誌。あと勉強です」
　久保さんは左手にTOEICと書かれた分厚い本を持ち軽く掲げる。
　「TOEIC受けるんですね」
　「はい。スキルアップのために。英語使えたほうが仕事の幅広がりそうだし、将来MBAとか取りたいんでそのためにTOEICの点を上げたくて」
　久保さん頭良さそうだもんなと思いながら、


　「あの、大丈夫ですか？よければご飯とか飲みとかどうですか？」
　「え…？」
　「なんか元気無さそうなので。俺でよければ話聞きますよ」
　ほぼ初対面なのにこの人はなんでそんな事分かるのだろうと思いながら見つめると、さらに久保さんは慌て
　「奢ります！俺のオススメの店で！ホテルのバーとかは厳しいですけど、その店は味と酒は保証します！中野さん雰囲気とかは好きじゃないと思うけど…」