ご近所さん的恋事情
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お腹空いた…ああ、美味しそうな香りがする…
お肉の焼ける匂い…食べたい…

瑠璃子は鼻を動かしながら、匂いが漂ってくる方向へと歩みを進める。

グー…良いタイミングでお腹が鳴った。胃袋がある辺りをそっと押える。

瑠璃子の目の前に赤い暖簾の焼き鳥屋が現れた。いつもこの前を通っているが、足を止めたのは初めてだ。いつも酔い香りに誘われそうになっていたけど、今日ほど誘われたことはない。


「焼き鳥屋 とりこう」


瑠璃子の住むマンションはこの焼き鳥屋の前を通って、次の交差点を左に曲がって、5分歩いたところにある。駅から近いことを第一条件にして、購入したマンションだ。

「その年でマンションなんて、買ってどうするのよ?一生結婚しないつもりなの?孫の顔を見せてくれないの…寂しいわ」

マンションを買って、実家を出ると報告したとき、瑠璃子の母親は嘆いた。瑠璃子が30才の誕生日を迎えた時から、母親は結婚相談所に行き、瑠璃子の結婚相手を必死に探した。
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