蜂蜜漬け紳士の食べ方


「あの人に、何かされたの」

「あの人…って、氏家先生ですか…?いえ、何も……っわ」

答えを聞く気が無いという風に、伊達は立ち上がりざまにアキへ覆いかぶさった。
背面にソファの固さがぶつかる。


「本当に?…こういうキスも?」

言われるなり、抵抗する間もないまま伊達に唇を奪われた。
顎を押さえられ、逃げる気持ちすら起こさせないようなキス。
驚いて口を開けば、すかさずヌルリと舌を滑り込まされる。

ウィスキーの潮臭さがアキの口内を侵食していく。
舌の根本から歯茎まで、ゆっくりゆっくりと伊達に侵される。

飲み込みきれない唾液がタラリと唇の端から漏れた。

今までになく、伊達の息が荒い。


「っ………ねえ、他は?」

ようやく解放された呼吸に肩を上下させる彼女へ、伊達がまた矢継ぎ早に問う。


「他は?どこか触られた?」

ただでさえアルコールが回り、更に酸素が不足した頭では思考が酷く鈍った。
アキは空ろなまま、「少し太ももを触られました」と答えた。


「ああ、そう……」

伊達は再び彼女へ覆いかぶさり、アキの左耳へ唇を寄せる。
そしてそのまま、空いていた左手が大きくドレスの裾から入りこむ。


「あ、ちょ…っ伊達さ」

「うん?何だい…」

彼女のなけなしの抵抗は、耳を舐めるような熱い呼吸と低い声でかき消されていく。
耳の裏までねっとりと舐められ、アキはいよいよ鼻から甘い声を漏らしてしまう。

伊達の大きな手のひらが、ゆっくりゆっくりと太ももを撫でる。
かさついた指先が、薄い内腿の皮膚を愛撫していくだけで、アキはもうたまらなくなってしまう。


「体、触られたんだろう…?」

「っはい…」

「じゃあ、…もう俺のものにしておかないといけないでしょ?」



思えばそれは、最後の選択肢だった。

抵抗しようと思えば、抵抗出来た最後の一瞬だったのだ。

けれどアキには出来なかった。

彼から口にされる言葉は、彼女を束縛しようとしているのが分かるのに。
目の前の彼が、前髪から見える切れ長の目が、小さな男の子のそれと似ていたから。



─── 何て情けなくて、何て愛おしいんだろうか。


アキは無言で、伊達の首へ両腕を回した。



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