蜂蜜漬け紳士の食べ方

それはほとんどボヤキにも嘆きにも似た低い声色。
アキから彼の顔は見えず、深く深く俯いたままの、小さな独り言だった。


「…年の差なんか関係無いって言ったのに、俺はずっと気にしてた」


彼の一言に、濃厚なウィスキーの香りがまとわりつく。
もう刺激臭は無くなり、代わりに甘い匂いがアキの鼻へ届いてくる。


「こんな…俺みたいなおじさんと付き合うことで、この子の可能性を奪ってしまうんじゃないか。
もっと若くて、良い男と付き合えたかもしれない未来を、俺が潰したんじゃないか。

…君が中野くんと話すのを見ているだけで、ずっと、そう思ってしまって…。

もし私に飽きたのなら、もうそれで構わないと…」




勘違いで無ければ。

彼の言葉の終わりに、ほんの少し、涙の色が滲んでいる──。




「もしかしたら俺は、本当に君の事が大事なら、身を引いた方が良いんじゃないかと…ずっとそう思ってた。

でも、嬉しいんだ。

アキを泣かせてしまったのに、…俺の事で泣いてくれて、どうしようもなく嬉しい。

本当は泣かせたくないのに。
大事に大事にしてあげたいのに。
…ずっと俺だけのものにしたい。
傍に置いていたい、誰の目にも触れさせたくないって、年甲斐もなく、ずっと…」


一人の男の吐露が、静かに消え入るように終わった。
伊達は深く俯いたまま。
小さく、鼻を啜る音がアキには聞こえた。

目の前に座りこむ一回りも年上の伊達が、年甲斐もない若い男に見えたのは気のせいだろうか。


「……………」


アキがそっと彼のくしゃくしゃな黒髪に指を通した。
ビクリと震えるのは、大きな体。

それでも彼女は、伊達の髪を撫でずにはいられなかった。
小さな子にするのと同じように。


もしかして彼は『年甲斐もなく』、こんな小さな葛藤をずっと抱いていたのだろうか?

いや、伊達からすればアキの葛藤だって、取るに足らない小さなモノだと思うだろう。


どうして自分達は、こんな簡単な事をしなかったのだろうか。
口は、食べ物を食べるだけじゃない。自分の気持ちを他人に伝えるためにも存在するのに。


しばらく経って。
「アキ」と小さく呼びかけられる。


伊達は顔をようやく上げた。



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