蜂蜜漬け紳士の食べ方

最上階の宿泊部屋に、さんさんと朝日が降り注ぐ。
昨夜はまるで分からなかったが、明るい室内はその絢爛さが一層際立って見える。

部屋のあちこちへ施された装飾。
家具の一つ一つもオーダーメイドだろう、少なくともそこらの百貨店には無いしとやかなデザインだ。
しかしそこには目もくれず、伊達は床に転がったままのウィスキー瓶をテーブルへ置き直し、キングサイズのベッドへ近寄った。


「おはよう、アキ。具合はどうだい?」


部屋に戻った伊達の声に、ベッド上の塊がモゾモゾと蠢いた。


「……おはよ…ございます……」


昨夜の雰囲気は最早無く、掠れ気味の声でアキがようやく頭を上げた。


「大分辛そうだったけど、良くはなったかい」

「……おかげさまで大分…あ、ありがとうございます」


渡されたグラスの水を飲み始めると、アキはようやく一息つく。
その様子を見ながら、伊達がベッドへ腰掛けた。


「伊達さんは…具合悪くないんですか」

「えっ?」

「あんなにウィスキーの原酒を飲んでたじゃないですか…」


水をちびちびと口にするアキからの指摘に、伊達は思わず声を上ずらせた。


「あ…ああ。うん。酒には強い方で…」


伊達は、酒の失態よりも、昨夜の独白に頬を染める。
アルコールの勢いに任せたアレは、年甲斐もなく情けない事だった。

しかしそれでも、もう不思議と胸のつかえは無くなっていた。
目の前の子からの小さな葛藤を、自分と同じような葛藤を聞いたあの後では。


「…しかしまあ、ムードというものが無いな。情事の翌朝に二日酔いとはね」


彼は喉の奥でくつくつと笑う。
それに対してアキは、もはや反論する元気もない。


「吐きそうかい?」

「吐きそうではないんですけど…頭痛がひどいです、そう元気に話さないで下さい…」

「はいはい」


伊達はどこか楽しそうなまま、彼女の乱れたままの髪を指で梳いた。


「今日が土曜で幸いだったね。…ああ、そういえば彼に連絡はしたかい?ナカノくん」


アキは唇についた水滴を拭った。


「ついさっき…。具合が悪くて先に帰っていたことにしました」

「それがいいね。
ま、チェックアウトまでゆっくり休んでなさい」


ちゅ、と髪先に落とされたリップ音に敢えて気づかないフリをして、彼女は再びベッドに潜り込む。


彼は、知っているだろうか。
既に彼女の頭痛なんて良くなっている事を。


「…伊達さん」

「うん?」

「手…、繋いでください」

「はい。どうぞ」


彼女は知っているだろうか。
もうアキの呼吸からアルコール臭が消えているのを、伊達が気付いている事に。


「この後のことだけど」

「?はい」

「二人でどこか、遠いところへ行ってしまおうか」

「…それはあれですよね。ただ単に…」

「うん。アキを独占したいだけ」

「………」


その明け透けな告白に、伊達自身もどこか冗談めいているように笑った。


「全部捨てて駆け落ちなんて、生活が成り立たなくなりますよ」

「そうかな」

「そうですよ」

「…まあ、君一人を一生囲えるくらいの資産はあるんだけれどね?」


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