如何にして、コレに至るか

息を呑む。ポケットの中のナイフを握り締めた。

扉を開けた瞬間に、男がいる。
そのイメージは変わらずにある。

そっと、聞き耳を立てた。音は聞こえない。扉に近づいて同じようにする。自身の息をも殺し、向こう側の様子を探った。

無音。
自分の心臓の音がうるさく思えるほどの静寂だ。

行けるかな、と意を決する。

ドアノブを回す。音が出ないよう、ゆっくりとーー回りきらなかった。

レバー式のドアノブだけど、数センチ下がったのみで、不動のまま。

力を無理に入れてみる。結果は同じ。

もうしかしたら、このドアノブにも接着剤がと絶望しそうになったが、ドアノブ下の鍵に気付いた。

ノクターン式の鍵。内側から開閉出来る鍵が閉まっていた。

「……」

部屋の中には、私以外誰もいない。
私ももちろん、鍵を閉めた覚えがない。

音を立てないよう、ゆっくりと鍵を開け、ドアノブを回す。

開いた。
この一連の流れで、何分もかかった。それだけ慎重に動いたためか、部屋の外に誰かいるという最悪の状況は免れている。

顔のみを出し、左右を見た。
部屋の外は直線状の廊下。

直線右手側には玄関。左手側には同じ壁に面した扉と、つき当たりに分厚いチョコレートみたいなブロック目の扉。


「……」

人影がないことに安堵する。
そっと、廊下に出た。

出てきたばかりの扉を閉めておく。開いたままでは、私がここから逃げ出したのがバレてしまうから。……部屋に入られたら、一発で知れるけど。

「あ……」

小さく、息を吐くように声を出す。

私がいた部屋の鍵は、外側からでもかけられるようになっていた。外側に鍵穴がある。

私をここに閉じ込めるために、外側から鍵をかけた。ーーでは、こうして出られてしまった現状に疑問を覚える。

内側からすんなり開いた。なのに、外側から鍵をかけるなんて。

考えたところで分かるわけないと、思考を切り替える。今は出ることに集中しなきゃならない。

迷わず、玄関に向かう。
外に出るための扉。一般的、常識的、そんな場所でーー私は、絶望を突きつけられた。


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