如何にして、コレに至るか

「……」

そこでーー『あの人、どこかで』と思える人がいた。

店の一番奥、カウンター席に座る男性。冬なのに薄着。普通なら寒いと本人も他人も思う格好だろうとも、その男性に至ってはむしろあったかそうと思えてしまう。

高めの椅子はなかなか足がつきづらいのだけど、男性は身長があるため、かかとまでぴったりとくっつき、その身長に恥じぬよう横にも成長していた。

鏡餅のような、どっぷりとした背中の持ち主は目立つ。学生Aで片付けるには特徴がありすぎるものだから、名前も知らないその人を私は覚えてしまった。

大学内で、よく見かけるから。

見ている内に、目が合った。
軽く会釈する前に、相手が慌てたように顔を逸らしてしまった。

見過ぎてしまった。失礼だったなと、反省していれば、入り口にあるドアベルが鳴った。

カランカランと綺麗な音を奏でるベルよりも、落ち着く声が私を呼ぶ。

「三葉(みつは)」

ごめん、待った?との意味を込めて、片手を上げる彼に笑顔で応える。

「大丈夫ですよ」

私の返しに、安堵したかのような面持ちの彼が、対面の席に座る。

若干、雪で白みがかったコートを脇に畳む彼。私のカップを見ながら、何頼んだの?と聞いてくる。

ブレンドですよ。と答えれば、じゃあ俺もと、店員に注文していた。

「ケーキとか食べない?」

「んー。今はいいです」

「コーヒーのおかわりは?」

「いっぱいいっぱいで」

「待たせちゃったね」

空のカップに苦笑するかのように彼は言う。待ち合わせ30分前に来た私が悪いのに、それでも彼の気持ちは晴れないようだ。

「どこ、行きたい?前に見たがっていた、映画にしようか」

その日のデートプランは毎日決まっているわけもなく、今日もその日。行き当たりばったりなデートでも、彼と過ごせるだけで十分だったりする。

待たせた穴埋めをすると言いたげな彼に、ほんと大丈夫ですよと反芻した。

「雪酷くなったら、道路凍って運転大変だろうし。宮本さんの部屋でいいですよ。久々に行きたい」

「そんなに遠慮しなくていいのに。でも、行きたい場所が俺の部屋、か」

「へ、変な意味とかではないですから」

「分かっているよ」

茶化された。そうして、笑われてしまった。

彼のコーヒーが机に置かれる。気のせいか、店員さんも笑っているように見えた。いや、接客業なんだから笑顔でなきゃいけないんだけど。

湯気の立つコーヒーを彼が口に含んだところで、ふと、私の斜め後ろに目をやった。


コースターにカップを置いてからも、視線は私より外れている。

「宮本さん?」

「あ、ごめん。ちょっと」

我に返ったかのように視線をこちらに向ける彼。彼が何を見ていたかなんて、容易に想像出来る。

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