噎せかえる程に甘いその香りは
俺が吐き出した言葉に仄は顔を強張らせ俯いた。
『…………じゃない、ですか。』
俯いた仄からポツリと言葉が落ちた。
グッと上を向いた彼女の燃えるような眼差しに瞬間息が詰まった。
『仕方ないじゃないですか!どんなに望んだって手に入らないって分かっていて、割り切ったつもりでいて、割り切れたと思っていて―――それでもあんな場面で勝手に心が傷付いてしまうのを、…もう、自分じゃどうする事も出来ないのに…っ!』
それが仄の見せた初めての激情。
俺を睨み付ける瞳から涙が零れ落ちるのを見て、俺は力任せに仄を抱きしめた。
どんなに足掻いたって決して手が届かない。
完膚無きまでの絶望に叩き落とされた俺と違って、希望が目の前に在る仄は頑張って手を伸ばせば届いてしまうんだ。
―――たとえ手に入る事は無くても。
一途さ故に何度も希望と絶望を繰り返す彼女は俺なんかよりずっと残酷な仕打ちを受けているのかもしれない。
多くを望まず静かに生きてきた仄が唯一欲したものが“愛情”
なのにそれすら手に入れられずに、彼女はこんなにも傷付いている。
『俺が居てやるから。仄が寂しい時はちゃんと俺がいるから。』
仄は幸せになるべきだよ。
幸せにならなきゃダメだ。
愛情を一杯知って、幸せにならなきゃ。
俺の彼女ヘの気持ちが明確になったのは、間違いなくこの日だ。
寂しさを紛らわせるためでもなく、同情でもなく……
誰でもないこの俺が、この手で、仄を愛情で浸して、幸せを教えてやりたいって思ったんだ。