TRIGGER!2
☆  ☆  ☆




 四階のホクロの奴に手招きされるままに“スターダスト”の裏手に回った彩香たち3人。
 問題のドアには、デッキブラシで閂(かんぬき)がしてあった。


「こりゃまた古典的な方法で閉め出されたもんだなぁ」


 デッキブラシを外しながら、ジョージが言った。
 風間は美和に化けたホクロを見て、それから俯き加減で言う。


「お願いがあります。その姿・・・私の前では、止めて貰えませんか」


 ホクロは微かな笑みで、風間を見つめている。
 どこか悲しそうで、それでいて愛しさをほんの少しだけ滲ませるような眼差しで。
 そう言えば、今までホクロは風間の前に姿を見せた事がない。
 彩香がそう思った時、ホクロは風間から視線を逸らすとゆっくりと背を向けて、表通りに出て行く。


「あぁ、そうだ」


 彩香はポケットの中を探る。
 視界の片隅に、表通りに消える赤いドレスの裾がひらめいた。


「これ、拾ったんだ」


 心なしか声を張り上げて、彩香は取り出した金色のジッポライターを風間に差し出した。
 その裏側には『H・K』とイニシャルが彫ってある。


「隼人と同じイニシャルだから、あげるよ」


 風間はそれを受け取ると、表通りを振り向いた。
 もう、美和に扮した四階の奴の姿は見えなかったが。
 このライターは三年前、美和を呼び捨てにしなかったからと没収されたものだ。
 あの日以来、タバコは辞めてしまったが。
 彩香がこれをどこで拾ったか、それを聞くのはよそうと思った。
 美和が持っていた筈のこのライターが今こうやって自分の元に戻ってきたと言うのは、間違いなく事実なのだから。
 風間は、フッと笑うと、ライターを彩香に差し出した。


「これはあなたが使って下さい。私はもう、タバコは辞めましたから」
「え? でも・・・」
「使って欲しいんだ、彩香に」


 ライターを彩香の手に握らせて、風間は真っ直ぐにその瞳を見つめる。


「くれるってんだ、貰っとけ彩香」


 風間の後ろでこっちを見て笑うジョージ。
 彩香は、そのままライターを受け取る。


「てことで、そろそろ行きますか」


 銃を構え、ジョージは言う。
 風間も彩香から視線を逸らすと、ドアに手を掛けた。
 ドアを抜ける瞬間、今までに見たことがないくらい、二人の顔が真剣だった。
 ギュッとライターを握り締め、彩香は唇を強く噛み締める。
 店の中に姿を消すジョージと風間の背中が、何故か霞んで見えた。
 絶対に。
 絶対に忘れたりしない。
 例え、あの薬をどれだけ飲まされようとも。


『あの人を忘れて生きるくらいなら、死んでるのと同じさ』


 “レッドルビー”のママの言葉が、脳裏をよぎった。
 今ならその言葉の意味が、重みが、痛いほど分かる。
 忘れるくらいなら・・・!
 彩香はライターを一瞬だけ胸に当ててポケットにしまうと、“スターダスト”に抜けるドアをくぐった。
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