TRIGGER!2
 三階のエントランスにはもう、北沢の姿はなかった。
 ほっと胸をなで下ろし、すぐにエレベーターに乗る。
 たまに昼間に出歩いてみれば、ワケの分からない言い掛かりを付けられる。
 もう、うんざりだ。
 早く帰って、すぐにでもプルトップを開けたい。
 ソワソワしながら五階で止まったエレベーターのドアが開くのももどかしく、足早に、赤い絨毯が敷かれた廊下を歩く。
 だが、今日はとことんツイてないらしい。


「おっ、彩香、今朝の仕事はどうだった?」


 ちょうど廊下に出てきたジョージに、ばったりと出くわしてしまう。


「・・・・・・」


 あからさまに無視して、彩香は自分の部屋に向かった。


「ビール買ってきたのか? 俺のも切れたから買いに行こうと思ったんだがな、タイミングいいなお前♪」
「ついて来るんじゃねぇよ!」


 エサ待ちの犬か、と、彩香は悪態をつく。
 ジョージはそのまま、彩香の部屋までついて来た。
 もう追い返すのも面倒くさくて、彩香は構わずにリビングに直行すると、コンビニの袋をテーブルに投げ出して缶ビールのプルトップを開ける。
 ごくごくと喉を鳴らして。


「あぁ~、やっぱうめぇな!」
「オヤジかよ」


 コンビニの袋から勝手にビールを取り出して、ジョージはうまそうに喉を鳴らす。
 さすがに、落ち着いたら猛烈に疲れが出て来て、彩香はぐったりとソファに倒れ込んだ。
 それでもビールの缶だけは離していないが。


「お前、もしかしてあれからずっと寝てないのか?」
「どうして分かるんだよ」
「めちゃくちゃブサイクな顔してんぞ」


 もう、怒鳴る気力もない。


「何してたんだよ。仕事は直ぐに終わっただろうが」


 ジョージにしてみれば素朴な疑問なのだろうが、彩香には今朝からの一連の出来事は、かなり不快なものでしかない。
 それを忘れたくて、やっとビールにありつけたのに。


「うるせぇよ、どいつもこいつも」


 ソファに寝転がったままジョージに背を向ける彩香。
 目を閉じるが、どうも今朝の仕事の光景が頭に浮かんで来て、眠気が覚めるばかりだ。
 ジョージは黙ってタバコをふかしている。


「・・・美和って女、知ってるか?」


 背を向けたまま、彩香は聞いた。
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