TRIGGER!2
 適当にお茶を濁すと、彩香は女性と別れた。
 ま、そんなに優秀な医者なら、あのマンションに住んでいる全員を診察してほしい、とか思ってしまう。
 当然、彩香には自分を診察して貰おうなどという気は毛頭なかった。



☆  ☆  ☆



 意気込んで佐久間クリニックに行った割には、収穫はこのパンフレット一枚だけだった。
 マンションのリビングのソファに横になりながら、彩香はタバコをくわえてそれを眺めている。
 何度読み返しても、どこにでもある普通の病院のパンフレットだ。
 その右下には、今朝見た佐久間先生の顔写真が印刷してある。
 その表情はいかにも温和で優しそうだった。
 こんなオッサンがあの悪顔のスキンヘッドと、あっちの世界で一体何の取り引きをしていたのか。
 渡された封筒には、何が入っているのか。
 佐久間が渡していた小さめの封筒は、現金を入れるのにちょうどいい大きさだった。
 厚みからして、ン百万単位で札束が入っていそうだ。
 かと言って、今の彩香には分からない事だらけで、そしてそれを調べる術はあいにく持ち合わせていない。


「あーあ・・・」


 クッションに顔をうずめて、彩香は呻く。
 じっとしているのは性に合わない。
 でもまだ夕方になる前で空は明るく、動くに動けない状態だ。
 ふと、病院で会ったあの少女の顔が目に浮かんだ。
 あの子は何故、あんなに自らを傷付けるような事をしたのか。
 あの子は、自分自身に負けたのだろうか。


「・・・・・・」


 雛子が言った意味深な言葉がまた、頭を過ぎる。
 だがそれは、彩香に向けて言った言葉ではないように感じた。
 あの言葉は、彩香を通して誰かに伝えたかったのだろうか。
 過去の亡霊。
 誰の過去?


「ああっ! もうムカつく!!」


 乱暴にタバコを灰皿に押し付けて、彩香はムシャムシャとアタマを掻きむしった。
 ちょうどそのタイミングで、携帯の着信音が鳴る。
 テーブルに置きっぱなしの携帯を手に取ると、通話ボタンを押した。
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