TRIGGER!2
「あなたを抱えて帰る時にね、峯口さんに頼まれちゃったのよ」
「何を?」
「ちょっと今回は、初心者の彩香ちゃんには荷が重いかもだから、何かあったら支えてやってくれ、って」
「余計なお世話だ」
「そう言うと思うから、内緒でねって言われたの」


 その割りには、全然内緒になってはいないが。
 彩香は、友香をじっと見つめる。


「やぁね、そんな目で見ないでよ。峯口さんの頼みなら喜んで聞いてあげるけど、内緒とか裏でこっそりとか、苦手なのよあたしは」
「そんな感じだよな」


 彩香が言うと、不意に、友香は生あくびをしながら目をこする。
 彩香は昨夜、友香の店に峯口と行ってから多少は仮眠をしているが、友香は徹夜だ。


「疲れたんなら帰って寝ればいいだろ」


 今頃になって、友香が何故彩香の前に現れたのかが気になる。
 大した用事もないのなら、彩香も少し1人になって色々と頭の中を整理したい。
 たった24時間前のこの時間は、AGORAで飲んでいたのだ。
 風間と朝8時に『佐久間心療内科クリニック』にドアの確認をしに行くと。
 そこから今まで、色々な事が一気に起こって。
 いい加減、脳みその許容範囲を超えそうだ。


「あ、別に疲れた訳じゃないのよ。普段喋らないでしょ、だからたまにこっちに来ると、余計な体力使うって言うか、どうも体質的にこっちの空気が合わないって言うか」
「そんなのあたしに関係ないだろ」
「ん~・・・」


 友香は居酒屋“結”で会った時の、無口で清楚な女将さんのイメージとは随分かけ離れている。
 本当は、仕事帰りに“スターダスト”のようなチャラチャラした店に一人で飲みに行くような女なのだ。


「傍観者でいるとは言ったけどね。ちょっと今回、個人的に応援したい人がいるの」
「誰だよ?」
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