私だけの魔法の手。


蒼の指は、魔法の指だった。
美容院でシャンプーをしてもらうとすごく気持ちいいけど、蒼のシャンプーはそんなものの比じゃないのだ。



ものの数分で夢の中の住人だった私が、ふっと意識を引き戻されたのは首の下に蒸しタオルを入れられた時で。
どうやらトリートメントをされてるらしい、って思ったのに、更に次に意識を取り戻したのは、美優、って呼び掛けられて唇に何かが押し付けられた瞬間。




え?っと驚いて目を開ければ、視界を覆うのは人で。
しかも、悪戯に細められた瞳に気付いて目を見開けば、好きだって言ってる男の前で無防備すぎだろ、っていう蒼のからかうような声が聞こえてきた。




無防備とかそんなんじゃないでしょー、とか。
シャンプーされてただけで、しかもこんな状況なのはそっちが無理矢理、とか。


文句を言いたい気もするのに、何ひとつとして言葉にはならないまま。



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