もしも私がーcasket in cremtion。

『アハハハハッ!』

 突如高笑いが響いて目を開けると、声は楽しそうに言った。

『何てね!冗談だよ冗談!キミ達に救いの手を差し伸べてあげよう。〝ご褒美〟さ。そこにある五つの扉に一人ずつ入るんだ。どれに入っても良いよ。』

 声に促されて、前方を見ると、そこには確かに五つの扉があった。
 全て灰色の扉で、模様もなければ、装飾もない。ただ、取っ手が取り付けてあるだけだ。

「ただし! 立花圭子、キミは一番真ん中に入ってもらうよ。じゃなきゃ、一斉に撃つから覚悟しなよ。別に入らなくっても良いんだよ、その人数に勝てるのならね?」

 意地悪い声が響いて、ブツンとスピーカーが切られた。すると、皆が私の顔を伺うように見る。

「私は大丈夫だよ、入ろう。」

(本当は不安だけど、このままじゃ、殺されてしまうし、皆の迷惑にもなる。)

 私は自分自身に頷くようにして、なるべく笑顔に見えるように口角を上げた。
 永璃が何か言いかけて、気持ちを切り替えるように幟呉達に向き直った。

「――じゃあ、入るか?」

「そう、だね。」

「ああ。」

「じゃあ、僕は一番左端の扉に入るね。」

 靭は気まずそうに頷いて、幟呉は相変わらず平然と。エリックは柔和に笑って扉の前に立った。
 幟呉がエリックの右横の扉、次に私、永璃、靭と続いて横一列に並んだ。
 それぞれ決めた位置に立つと、お互い目で合図を送り、静かに扉を押した。
 
 中に入ると、そこは闇だった。
 何も見えない闇。
 光を失くして、私を突如恐怖が襲った。
 不安という名の恐怖だ。何も見えないし、聞こえない。

 私はそこで立ちすくんでいた。
 後ろにはたった今入って来た扉があるはずなのに、気配が感じられない。
 
 強すぎる光は目に障るし、カンにも障るけど、少しもない光は、闇で、闇はとても怖かった。私の心も黒く染められてしまいそうで……。

 すると突然、床の一部が薄く光り始めた。
 
 その光は道路の白線のように道を示していた。
 どうやら、床に蛍光灯がはめてあるみたいだ。

 私は緊張しながらも、ゆっくりと手に力を込めて、一歩を踏み出した。
< 91 / 109 >

この作品をシェア

pagetop