嘘つきな僕ら




『…そういうことか』


お兄さんは俺の話に笑うこともなく、どこか遠くを見つめていた。



『良之さ?
 お前の中に桜坂を受験するっていう選択肢はねぇの?』


お兄さんの言葉に、俺は目が飛び出しそうになった。


『…無理ですよ…俺の成績じゃ北陽に行くのだって瀬戸際なのに…桜坂なんて…』



『そうかな?』


『そうですよ…!』



『良之は考えかたがマイナス過ぎんだよ?
 本当に由莉のことを想ってるんならさ…由莉の気持ちを組んだ上での応援をするべきなんじゃねぇの?』


『…だから…夢を叶えて欲しくて…桜坂に行って欲しいって…』



『でもそれじゃ由莉は納得できなかった…
 由莉は良之の傍にいたいんだろ?
 お前は違うの?』


『…俺は…』


俺だって同じ学校がいい。

同じ学校の制服を着て、同じ電車に乗って登下校して、同じ時間を過ごしたい…よ。




『由莉は俺からも桜坂に行くよう説得する』


『……ありがとうございます…』



『でも、それは良之、お前が桜坂を受けることを決めたらだ』


『…え…?』



『本当に由莉のことが好きなら、由莉の傍に居てやって?
 アイツ、このままじゃ本当に壊れちゃうからさ…』


『…でも…俺の成績じゃ……』


絶対に無理なんですよ…


『結果が出てもいないのに、自分の限界を自分で決めてどうすんだよ?
 お前が桜坂を受けるって言ってくれたら、俺はお前を桜坂に絶対に合格させてやるよ』



『…え…』



『男としての頼み方じゃないことは重々承知してる。
 けど、もう由莉が泣く姿を見たくないんだよ…』



『だから良之が了承してくれれば、俺は絶対、桜坂に合格させてやる』



お兄さんの言葉になんと答えたらいいか…


俺なんかが桜坂なんて…



それに守達とも…




『せんせー』

振り返ると守たちが屋上入口の扉のとこに寄りかかって、こっちを見ている。



『…守…タケ…加藤…?』



『俺たちも桜坂挑戦したいでーす!』

守がそう叫んだ。


『俺が一番確率低いけど、でも俺も桜坂行きたいでーす!』

加藤も続いて、そう叫んだ。


『不純な動機かもしれないけど、彼女と離れ離れになっていらぬ心配するより、近くにいたいと思うんで、俺も桜坂行きます!』

タケも照れくさそうに、そう叫んだ。



『……え……』



『良之はー?』

守がそう叫ぶ。


俺は…


『俺ら、みんな桜坂行くけど、お前どうすんのー?』





< 58 / 73 >

この作品をシェア

pagetop