コトノハの園で
冷えた身体を温めてもらうために、ドーナツとホットココアをご馳走する。
「ワーイ、ありがとっ!」
「もうっ。今から体調には気をつけてなきゃダメだよっ」
「ヘヘッ、ごめーん」
向かい側の席の桜ちゃんに手を伸ばす。突いた頬は冷たくて、桜ちゃんは私の指の温かさに気持ちがいいと目を閉じる。――結局、どちらの体温が正常なのか分からなくなって、悪影響もあるといけないからすぐに手は引っ込めた。
「ところでさ、菜々ちゃん。今日は図書館行かないの?」
「――なんで?」
「桜、英語で分かんないとこあって、森野さんとこ行くんだ」
通い始めた夏休み以来、時折そうやって、勉強を教えてもらっているらしい。
「……いけません」
「残念。桜ひとりかぁ」
ちょっとだけ、訂正を入れる。
「違うよ。桜ちゃんも今日は図書館禁止。ここから直帰、ね?」
「エエ~ッ!?」
「風邪なら自宅待機。安静にしてましょう」
「エエ~ッ!!」
もちろん、桜ちゃんの体調だって心配してる。
けど……
『森野さんにうつったら嫌だから』……言わない私は、とても卑怯だ。
口に出してしまえば、それは見知った人たちを心配する何気ない一言なのに。
言えない私は、なんて……。