コトノハの園で
「あっ、そうだっ!」
手の中の、温かい存在を思い出す。
「森野さん、これどうぞ。当たりが出たんです」
紅茶の缶を放り投げた。上手い具合に放物線を描き、それは森野さんの手の中に着陸。
「いらなかったら、誰かにあげちゃって構いません」
紅茶を好んで飲むことは、知ってるけど。
「あっ……、――ありがとうございます」
そう言ってくれて、すぐには封を開けずに、私の存在など忘れたみたいに、森野さんは耳や頬、冷えていたらしい箇所に缶をあて始める。
「温かい。生き返ります」
「ふふっ。だったら、なんで外で休憩しているんですか?」
「そっ、それは……」
「――ここ、落ち着きますよね。私も大好きです。去り難くなってしまうくらい」
「そっ……そんなような、理由です」
気を紛らわせるためにか、森野さんは黒縁眼鏡を一旦外し、目頭を押さえる。そして、まだ温もり残る紅茶の缶を瞼にそっとあてた。
心臓が跳ねる。
抑えていた心が、飛び出しそうだ。
私より年上なんだけど、立派に男の人だけど、森野さんは、眼鏡を外すととても可愛らしくなることを発見してしまい、……少し、欲が出た。
それはきっと、多分――
――今日が、イブなんて日だからだ。
今、なのかな?
伝えるとしたら。
宙ぶらりんにはしておけない、迷ったままだったこと。
決断は、ここかもしれない。