コトノハの園で


――


図書館から少し離れたところにある自動販売機で、温かい紅茶を二本購入し、中庭へ。


さっき、居ることは確かめた。


呼び出されたのは多分偶然じゃない。多分、本当に、理由をつくってくれた。


「――こんにちは、森野さん」


「っ!?」


毎度のことだけど、後ろから声をかけると、森野さんは飛び上がってしまいそうなくらい驚く。けど、私だと認識したあとの様子は、以前より、幾分ぎこちなさが減ってきたと思う。思いたい。


こんなに寒い日でも中庭で休憩するなんて、私には好都合だけど、森野さんの体調は平気なんだろうか。質の良さそうなダウンコートとカシミヤのマフラー。防寒対策はしているみたいだけど、やっぱり心配。


どうかどうか、雪の降る日は室内にいてください。願いながら、もうひとつのベンチに私も座る。


「――ああそうだ。以前、ふっ、深町さんから教えていただいた小説を、読みました」


唐突に始まった森野さんからの会話に、感動しながら平気に答える。


「いかがでしたか?」


「はい、とても良かったです。幅広く、知っていなくてはいけないのですが、流行はスピードが速くて……なら、こうやって生の意見を訊くのもいいかと考え、ふっ、深町さんに、白羽の矢を立てさせてまらいましたっ……申し訳、ありません」


白羽の矢だなんて。大げさだけど、大きなことだったんだよね。


「そうでしたか。――自分の好みのものを褒めてもらえるのって、いい気分です。役得です。自分が執筆したわけでもないのにですけど」


担えたのが、私で良かった。


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