コトノハの園で


――


それは、確かに悲しい出来事。


でも、なにもそこまで、な出来事。


けど、それは私の主観。体験した当人は森野さんで、もうずっと、永い時間を苦しんで、縛られてきたんだ。情けないとか、かわいそうなどとは思わない。権利も、ない。


「でも、それで女性全てが悪魔だとは思わないでくださいね」


「はっ、はいっ。だからここまで立ち直れたのだし、深町さんはいい人ですし」


「っ、……」


きっと、この言葉は些細なこと。何気ないこと。


……けど戸惑う。


「どうかされましたか?」


森野さんを、現状からは脱出させてあげたいけど、少しくらい女性と遠くてもいいかもしれない――


「いいえ」


――ただただ素直に、さらりと、こんな具合に褒められては、私の心が保たない。


嬉しくて幸せだけど、本当に参ってしまう。


「でも、私だって悪魔だなって、自分で思うところはたくさんです」


お互い、ずうっと正面を見据えたまま会話する光景は、他人から見たらさぞ面白可笑しく映ってるんだろうな。


今、どんな顔をしてるの? ――気になって盗み見ると、森野さんは相変わらずで、私を視界に入れてくれてることはなかった。


そして、するりとかわすみたいにうそぶく。


「そうでしょうか?」


……ずるい。こういうとこ。


< 78 / 155 >

この作品をシェア

pagetop